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評価:
伊坂 幸太郎
新潮社
¥ 660
(2003-11)
Amazonランキング:
1607位
Amazonおすすめ度:
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伊坂幸太郎デビュー作。
第五回新潮ミステリー倶楽部賞受賞
コンビニ強盗に失敗し逃走していた伊藤は、気付くと見知らぬ島にいた。江戸以来外界から遮断されている“荻島”には、妙な人間ばかりが住んでいた。嘘しか言わない画家、「島の法律として」殺人を許された男、人語を操り「未来が見える」カカシ。次の日カカシが殺される。無残にもバラバラにされ、頭を持ち去られて。未来を見通せるはずのカカシは、なぜ自分の死を阻止出来なかったのか?
(【e-hon<要旨>】より抜粋)
あらすじは、上記の通り。
しゃべるカカシの《優午》が殺されるのは、物語のまだ序盤の頃なのだけれど。
登場人物が多すぎて混乱云々という感想をちらと拝見したので、少し挙げてみようと思う。
伊藤
この話の主人公。知らぬ間に荻島に連れてこられた。
案山子(優午)
この話の鍵を握る存在。未来を予知できる。
城山
人を痛めつけるのが趣味の、恐ろしい男。主人公も被害に遭いそうになった。警察官で、コンビニで強盗をしようとした伊藤を逮捕する。
日比野
主人公に島を案内した男。適当で、人の話をあまり聞かない。
轟
島で唯一外に出られる人間。見た目が熊にそっくりらしい。色々となぞが多い男。
園山
嘘しか言わない画家。何を聞いても嘘しか言わない。
静香
主人公の元恋人。
主人公の祖母
既に死んでいる設定だが、描写が多い。
曽根川
もう一人の、島の来訪者。主人公より前に来ていて、轟と何かあるらしい。
桜
島で殺人を許された男。不思議な男である。詩をよく読んでいる。
田中
ジョン・ジェームズ・オーデュボンのリョコウバトの話を伝えている人物。優午と仲がいい。足が悪い。
(
Wikipedia「オーデュボンの祈り」より)
良質なエンターテイメント作品である。
勧善懲悪を基調としていながら、既存の概念に小さな疑問符を持たせるような問いを投げかけているようにも思える。
レイプを憎む心やカオス理論、ミステリ小説における【名探偵】のパラドックスへの言及など、以降の作品にも続く基盤も見られる。
シュールな作品。
幾つか、この作品についてのレビューを読んだが、そのように表現されているものが多かったように思う。
恐らく、文庫版の解説にそう書かれているからであるが。
しかし、初っ端から”存在を知られていない島”に連れて来られた小説を【非現実】だと評しても仕方ないので(というより、小説を「シュール(非現実的の意で)」と表現すること事態が不毛なことだと思うのだが)、ここでは【超現実】の意で用いられているのだろう。
伊坂幸太郎自身がシュールレアリスムを目指して筆をとっているかは解りかねるが、それに近い思想を以って書かれた作品であるようにも思う。
超現実とは現実(約束事などに捕らわれた日常世界)に隣接した世界、またはその中に内包された世界で、現実から離れてしまった世界ではなく、夜の夢や見慣れた都市風景、むき出しの物事などの中から不意に感じられる「強度の強い現実」「上位の現実」である。
(Wikipedia「シュルレアリスム」より)
「定義は嫌いだ」と言われそうですが(笑)
外界から遮断されている荻島には、それぞれの生活がある。
現実離れしているが、生活しているのは人間である。
また、伊坂氏は、登場人物の口を借りて上手く自身の思想を伝える作家であると思う。
作中で、カオス理論をジューサーを使ったミックスジュースに喩えて、「神様のレシピ」という表現を持ち出すシーンがある。なるほど上手く捉えている。
「神様のレシピ」。それだけ聞くと、なんとも陳腐なかっこだけの言葉のようにも受け取られかねないのだが、この「神様」というのは実に絶妙である。
語弊があるかもしれないが、特定の信仰を持たない日本人の多くが、幼い頃、漠然と「かみさま」という存在を捉えていたのではないだろうか(「天の神様の言うとおり」などのように)。
●感想
他の伊坂作品を先に読んでしまったので、少々粗いようにも感じたけれど、充分読み応えがありました。
美形好きなので桜押しです(笑)
主人公の元恋人・静香は少し受け入れにくい性格だったかな。
伊藤のように考え方が変わることを期待していたのだけど、最後まで変わらなかったのもまた現実なのかも。
城山に関しては、恐らくほとんどの読者の読みどおり。
まぁ、そこに余計なひねりはいらないのでこれでいいと思います。
日比野、良かったです。
「ゴールデンレトリーバーというのはハンサムな」んでしょ(笑)
足がはやいのも◎
何より素直な性格がいいですね。
この小説で一番好きなのは最後です。
秋の夕暮れに、お雅と優午の会話で終わるのが、すっきりしていてとてもいい。
【超現実主義/シュールレアリスム】
理性の支配をしりぞけ、夢や幻想など非合理な潜在意識の世界を表現することによって、人間の全的解放をめざす二〇世紀の芸術運動。ダダイスムを継承しつつ、フロイトの精神分析の影響下に1924年発刊されたブルトンの「シュールレアリスム宣言」に始まる。画家のダリ・キリコ・エルンスト、詩人のアラゴン・エリュアール・滝口修造らが有名。