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  • 2016.05.03 Tuesday
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評価:
坂口 安吾
新潮社
¥ 420
(1986-12)
Amazonおすすめ度:
「怖れるな。そして、俺から離れるな」

先に読んだ伊坂幸太郎の「ラッシュライフ」にこの引用を見つけ、懐かしくなり読み返してみた。
安吾といえば、学生のころ、本書にも収録されている「青鬼の褌を洗う女」を研究テーマにしていた後輩を思い出す。
ゼミでは、簡単な発表の時間を設けられていた。
彼女の発表は「『白痴』という美しい小説がある」という文言で始まった。
この第一声が大変印象的で、今でも脳裏に焼きついている。
「美しい小説」?
安吾は美文を嫌い、努めて悪文を綴ったが、「美しい小説」と評される所以は一体何であろうか。
しかし、今読み返してみても、やはり「白痴」は美しいのである。


彼は見た。白痴の顔を。虚空をつかむその絶望の苦悶を。
 ああ人間には理智がある。如何なる時にも尚いくらかの抑制や抵抗は影をとどめているものだ。その影ほどの理智も抑制も抵抗もないということが、これほどあさましいものだとは! 女の顔と全身にただ死の窓へひらかれた恐怖と苦悶が凝りついていた。
―※1


その頷きは稚拙であったが、伊沢は感動のために狂いそうになるのであった。ああ、長い長い幾たびかの恐怖の時間、夜昼の爆撃の下に於て、女が表した始めての意志であり、ただ一度の答えであった。そのいじらしさに伊沢は逆上しそうであった。今こそ人間を抱きしめており、その抱きしめている人間に、無限の誇りをもつのであった。―※2


二人の人間だけが――けれども女は矢張りただ一つの肉塊にすぎないではないか。女はぐっすりねむっていた。凡(すべ)ての人々が今焼跡の煙の中を歩いている。全ての人々が家を失い、そして皆な歩いている。眠りのことを考えてすらいないであろう。今眠ることができるのは、死んだ人間とこの女だけだ。死んだ人間は再び目覚めることがないが、この女はやがて目覚め、そして目覚めることによって眠りこけた肉塊に何物を附け加えることも有り得ないのだ。女は微(かす)かであるが今まで聞き覚えのない鼾(いびき)声をたてていた。それは豚の鳴声に似ていた。まったくこの女自体が豚そのものだと伊沢は思った。―※3


「白痴美」という言葉があるが、文字通りここに登場する白痴は美貌の持ち主である。

※1―3に引用したように、伊沢の心理は表情を変える。
白痴は、ただ肉体であり、しかし人間でもあり、やはり肉塊それだけなのであると考える。
人間は、理知や感情によって汚れるが、理知も感情も持ち合わせていない人間の形をした肉塊もまた豚のように浅ましい存在なのだろうか。
しかし、伊沢は確かに白痴に心を動かされたのである。


以下は、※2の直前に置かれている本小説のクライマックスの一部である。
主人公、伊沢の描写は、この直後の※2になるが、以下の引用部分は、何時の時代も読む者の心を惹きつける名文である。


「死ぬ時は、こうして、二人一緒だよ。怖れるな。そして、俺から離れるな。火も爆弾も忘れて、おい俺達二人の一生の道はな、いつもこの道なのだよ。この道をただまっすぐ見つめて、俺の肩にすがりついてくるがいい。分ったね」女はごくんと頷いた。

力強い台詞。
人々は、生きようとする姿勢の中に美を見つけるのか、戦後の虚脱に影響を与えた。


同年、エッセイ「堕落論」を発表してる。

【収録作品】
・いずこへ
・白痴
・母の上京
・外套と青空
・私は海を抱いていたい
・戦争と一人の女
・青鬼の褌を洗う女



坂口安吾デジタルミュージアム

  • 2016.05.03 Tuesday
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  • 16:30
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