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  • 2016.05.03 Tuesday
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評価:
夏目 漱石
集英社
¥ 432
(1992-12)
Amazonランキング: 108442位

評価:
夏目 漱石
新潮社
---
(1950)
Amazonランキング: 477737位

JUGEMテーマ:最近読んだ本

「死んだら、埋めてください。大きな真珠貝で穴を掘って」そう言い残して逝った女の墓の傍で、男は百年待った…。不可思議な幻を紡ぐ「夢十夜」そして、美しさを追い、心のやすらぎを求めた「草枕」。絵画的で詩情あふれる文章の中に“理智の人・漱石”の側面をも覗かせる名作。


(「BOOK」データベースより)

 山路を登りながら、こう考えた。
 智に働けば角が立つ。情に掉させば流される。意地を通せば窮屈だ。とかくに人の世は住みにくい。
 
『草枕』の有名な書き出しである。
読んだことがなくとも、この冒頭を一度は目に(もしくは耳に)したことがあるのではないだろうか。
 
−漱石は健全を通り越して立派すぎた。威厳さえあった。そういう存在は、子どもにとって実は困ったものであった。それはまるで当時のぼくらの回りにいた、大人たちの姿そのものだったのだから。
 
巻末で大林宣彦氏がこう書いているように、私も漱石を同じように敬遠していた一人だった。回りにいた子ども達と比べ、多少は本を読んでいた私も例にもれず、親や学校の先生から夏目漱石を進められた。しかし、「吾輩は猫である」や「坊ちゃん」を読んでみるもまったく面白くなく、ただ字面を追うだけで、ついには読むのを断念してしまった。どれだけ読んでも、とにかくつまらない。その上、夏目漱石先生は、品行方正で立派すぎる。そんなイメージが重くのしかかってくるようで、本当に本当に苦手だった。
小学生ながらに生意気にも「読書好き」を自負していただけにこの経験は尋常ではなく、何度か読み返してみようとしたが、結局最後まで読み切ることができなかった。子どもの頃の私は、世の中にはつまらなく読み切ることができない小説が存在することを漱石に学んだ。そして、これ以降、夏目漱石の敬遠と積読ライフが始まるのである。
 
長い間、敬遠していた漱石を再び手にしたのは、なんと大学時代だった。普通なら高校生ぐらいにはなんとか克服するのだろうが、本当に苦手だったのだ。
必修科目だったため、単位を落とすことはできない。平素からあまり真面目な学生ではなかった私は、試験直前に必死で読み込まなければならなかった。それが、この『草枕』である。
本は仲のよかった先輩から譲り受け(たくさんの書き込みがしてあり、本当に助かった)、優秀な友人からノートもコピーさせてもらい、その甲斐あって、試験は「優」の評価をもらった。そして、周囲の友人たちを大いに驚かせた。
 
読んでみると、意外に読みやすい。最初の芸術論さえ読み切れば、会話文も軽快で面白い。話の筋さえ面白い。なぜ今まで読まなかったんだろう、という程面白い。ついでに一緒に監修されている「夢十夜」も読んでみた。こちらは十篇の短編で、これまた眼前に映像が映るかのように鮮明に描かれている。
 
そんな、私にとっていわくつきの『草枕』を読み返してみた。本はもちろん先輩のお古である。
大学時代より、更に面白く読めた気がする。当時は試験項目だったので、愉しみながら読むことはできなかったせいか、二十歳そこそこの頃より、もう少し色んなものをみてきたせいか。
『草枕』というと冒頭の文章が有名だが、私が気に入ったのは、深山椿の描写である。夏目漱石とは、かように美しい文章を書く人だったか、と少し驚いた。よく読まれる方なら到底ご存じだとは思うが、私の中では、やはり偉大な漱石先生が占めていたので、このような「言葉を紡ぐ」イメージはまったくなかったのである。
とても気に入っているので、少し長いがその一部を引用してみたい。
 
 
あれほど人を騙す花はない。余は深山椿を見るたびにいつでも妖女の姿を連想する。黒い眼で人を釣り寄せて、しらぬ間に、嫣然たる毒を血管に吹く。欺かれたと悟った頃はすでに遅い。向う側の椿が眼に入った時、余は、ええ、見なければよかったと思った。あの花の色はただの赤ではない。眼を醒すほどの派手やかさの奥に、言うに言われぬ沈んだ調子を持っている。悄然として萎れる雨中の梨花には、ただ憐れな感じがする。冷ややかに艶なる月下の海棠には、ただ愛らしい気持ちがある。椿の沈んでいるのはまったく違う。黒ずんだ、毒気のある、恐ろし味を帯びた調子である。この調子を底に持って上部はどこまでも派手に装っている。しかも人に媚びる態もなければ、ことさらに人を招く様子も見えぬ。ぱっと咲き、ぽたりと落ち、ぽたりと落ち、ぱっと咲いて、幾百年の星霜を、人目にかからぬ山陰に落ち付き払って暮らしている。ただ一眼見たが最後!見た人は彼女の魔力から金輪際、免るることはできない。あの色はただの赤ではない。屠られたる囚人の血が、自ずから人の眼を惹いて、自ずから人の心を不快にするごとく一種異様な赤である。
 

作中、海棠や木蓮、菫など、様々な花の描写があるが、この深山椿の描写は非常に長く、不気味に描かれている。
この小説には、いくつかキーワードが散りばめられていて、上に挙げた「椿」もそのひとつだ。ミレーのオフェリア(この絵を初めて見たときはぎょっとした。一度見ると忘れられない絵だと思う)や「春」という妖しい季節もそうだろう。それから、「非人情」という概念。主人公はこの旅で、非人情を心がけながら、「憐れ」の感情を探しているのである。那美さんの顔に「憐れ」が宿る場面は、非人情とは程遠く、それもまた面白い。
抽象的な概念、自然の描写、そして軽快な会話が、章ごとに入れ代わり立ち代わり描かれている。注釈が多い小説だが、美しく、面白い小説である。これでは、大人たちが勧めるのも無理はない。
 
さて、もう一箇所気に入ったところがあるので、そちらも紹介したい。
 
五年も十年も人の臀に探偵をつけて、人のひる屁の勘定をして、それが人世だと思ってる。そうして人の前に出て来て、お前は屁をいくつ、ひった、いくつ、ひったと頼みもせぬことを教える。前に出て言うなら、それも参考にして、やらんでもないが、後ろのほうから、お前は屁をいくつ、ひった、いくつ、ひったと言う。(中略)そうしてそれが処世の方針だと言う。方針は人々勝手である。ただひったひったと言わずに黙って方針を立てるがいい。人の邪魔になる方針は差し控えるのが礼儀だ。

 
『草枕』が刊行されたのは明治39年なので、既に100年以上前のことだが、上の引用は現代にも通ずるものだと思う。インターネット上の「私刑」などは、まさにここに書かれてある通りではないだろうか。この引用部分の後で、和尚との話の噛み合わない会話の中に「かまわんがな。すましていたら。」とある。これもまた真理である。


*********************

以前、インターネット上のどこかで、「漱石のような古典」と書かれているのを目にした。私は、古典とは近世以前のもの、近代以降の有名どころはスタンダードだと認識していたが、なるほど既に漱石も鴎外も古典になるらしい。その辺の線引きはどうでもよいが、100年以上の年月が経っても、読むものに感動と共感を与えている漱石は、やはり素晴らしい小説を書いたのだということは間違いない。

ちなみに、私が所持しているものは集英社文庫のものだが、個人的には新潮文庫の方が好みなので、二つにリンクを貼っておく。
集英社のものは、カバーのイラストが変わってしまったようである。
 
 
夢に現れた無意識の世界を綴る「夢十夜」。美しい春の日、青年画家と謎の美女との出会いを描く「草枕」。漱石の東洋的ロマンティシズムの世界を伝える名作。(解説・平岡敏夫/鑑賞・大林宣彦)
(集英社)

  • 2016.05.03 Tuesday
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